シングルマザーにとって大切なもののひとつに「養育費」があります。養育費は、お子さんを育てていく上で、経済的な助けになるのはもちろんのこと、お子さんにお父さんの愛情や関心を伝える手段として、心の栄養にもなりえるものです。しかし、早く離婚したい一心で、何も取り決めずに離婚してしまった人や、取り決めたものの、いつしか支払われなくなってしまったという人もいるかもしれません。
そんなとき、みなさんならどうしますか?直接のやりとりはしたくない、でも弁護士に依頼するお金もないし、裁判所に申し立てるほど大げさにもしたくない、そんな人も多いのではないでしょうか。
今日は、そんなときの一つの選択肢、ADR(裁判外紛争解決手続)という制度をご紹介したいと思います。
ADRは、Alternative Dispute Resolution の略で、「問題解決の代替の方法」といったような意味合いがあります。いわば、民間の手軽な裁判所です。もめている人たちの間に入り、仲裁をしたり、合意案を提示したりします。
ADRを実施するのは、専門の仲裁機関です。そして、その中でも「認証ADR機関」とよばれる法務大臣の認証を取得した機関であれば、法務省の監督下に運営されていますので、安心して利用することができます。
では、この聞きなれないADRという制度ですが、次はその特徴をお伝えしたいと思います。
当事者どうしの話し合いは、どうしても感情的になったり、力関係の差で言いたいことが言えなかったりします。また、双方に法的知識がないため、妥当な落としどころが分かりません。そもそも、相手と面と向かって交渉すること自体にストレスを感じる方も多いでしょう。この点、ADRは、専門的な知識を持った調停者(弁護士や家事調停委員など)が間に入りますので、冷静な話し合いや適切な合意が可能です。
自分たちで話し合いができない場合、家裁に申し立てるという方法があります。しかし、家裁の調停は平日の日中のみですし、今どきメールも使えません。しかし、ADRの調停は、平日の夜間や土日も利用可能ですし、メール・電話はもちろん、遠方にお住まいの方はテレビ会議システムを使ったオンライン調停も可能です。
家裁の調停は、1カ月に1回です。そのため、解決まで1年かかったということもざらにあります。一方、ADRの利用頻度は当事者のニーズに応じて設定が可能で、解決までの平均期間は約3カ月です。
自分自身での交渉に限界を感じ、弁護士に依頼する人もいますが、弁護士費用は決して安くはありません。例えば、離婚案件ですと、着手金30万円程度、成功報酬を含めると100万円以上かかることも普通にあります。しかし、ADRは、機関によって費用は異なるものの、利用料が安いところがほとんどです。ちなみに、当センターですと、申立料が1万円(税別)、調停1回(1時間)につき1万円(税別)です。
このように、メリットが多いADRですが、もちろんデメリットもあります。裁判所と異なり、任意の制度ですので、相手方が応じてくれない場合、話し合いを進めることすらできません。また、安いといっても、少しは費用がかかります。金銭的に余裕のない方にとっては、弁護士に依頼せず家裁で調停を行った方が負担が少ないといえます。
そんなADRですが、先ほど例に挙げた養育費のほかには、どんなことを話し合えるのでしょうか。
実はたくさんのADR機関が色々な分野について法務大臣の認証を取得しているのですが、ここでは、みなさんに関係があると思われるもめごとについてご説明したいと思います。
これを読んでくださっている方の中には、まだ離婚はしていないけれど、近々離婚予定という方もおられるかと思います。お子さんがいるご夫婦の離婚は、養育費のほかにも、親権や面会交流、財産分与といった条件について取り決めておく必要があります。このように、離婚条件の話し合いの場として利用することができます。
子どもと一緒に暮らしていない親と子どもが会うことを「面会交流」と言いますが、この面会交流でもめる人もいます。例えば、元夫が毎週のように連絡をしてきて、子どもに会わせろというので困っているとか、会わせないなら養育費を支払わないと言われたという方もいるかもしれません。このような面会交流の問題についても、ADRを利用して話し合うことができます。
一方は離婚したい、でももう一方は離婚したくないと考えているご夫婦の場合、「当面は別居する」という結論を出さざるを得ないことがあります。その場合でも、どちらが家を出るのか、子どもはだれと住むのか、別居中の生活費である婚姻費用はどうするのかといったことを決める必要があります。ADRでは、このような離婚前のもめごとについても利用可能です。
ここまで、ADRの利便性やどんな場合に使えるかをお伝えしてきましたが、ADRの一番の魅力は、「むやみに争わない解決」が期待できるところです。
離婚の前後というのは、相手へのマイナスの感情が吹き荒れるわけですが、それでも子どもの父母としての関係は続いていきます。また、一度は一生添い遂げるつもりで一緒になった相手を徹底的に否定することは、自分自身を否定することにもつながり、とてもしんどいものです。そのため、なるべく争わず、軽症のうちに次のステップに進んでいただければと思うのですが、そのお手伝いができるのがADRなのです。
参考動画:https://www.youtube.com/watch?v=kyqCjKoUBVc&feature=youtu.be
なお、少しずつですが、行政による養育費保証の制度が進められています。現在、東京都港区では、養育費を取決めるためのADRに対し、費用の助成が行っています。
「養育費なんていらないから、とにかく早く離婚したい!」、「あの人と二度と顔を合わせたくない!」といった気持ちもよく分かります。でも、一方で、養育費をもらうことは子どもの権利でもあります。つらいときは一人で頑張らず、ぜひ専門家の力も借りてみてください。
〇経歴
平成14年4月 家庭裁判所調査官補として採用。以降、各地の家庭裁判所にて勤務
平成29年3月 東京家庭裁判所を最後に辞職
平成29年4月 離婚テラス設立