子供が1歳のとき離婚し、3歳のとき現在の夫と再婚。アメリカ人の夫とは育児の常識が違うので、カルチャーショックを受けることも多い。現在はカウンセラーとして女性の悩み相談・メンタルケアに対応。URL:https://megumiriyo.themedia.jp/n
私は子供が1歳のとき、シングルマザーになりました。現在は再婚しているのですが、シングルマザー時代は辛いこともたくさんあり、生きているのが恐くなったときもありました。みなさんもシングルマザーとして育児や仕事に追われる中で、同じような気持ちになったことがあるのではないでしょうか。たとえば、私がとくに「辛いな」と感じたシチュエーションは、以下のようなものでした。
仕事のため、子供を保育園に通わせていると、集団生活の中でいろいろな病気を経験しますよね。私の子供も、風邪をこじらせて肺炎になり、しばらく入院生活を送ったことがあります。子供はまだ1歳だったため私も一緒に入院し、病院と自宅、職場を往復した数週間は、精神的にも体力的にも大変でした。
また、自分が体調を崩し、保育園への送迎もままならないような高熱のときも、頼る人がいない辛さを身に染みて感じました。動けないほど苦しくても、お迎えに行かないわけにはいきません。そして帰宅した子供には、私が具合の悪いことはよく理解できないので、一緒に遊んだり、世話をしなければなりません。こんなとき、誰か助けてくれる人がいればいいのに…と泣きたくなることもありました。
シングルマザーであることに対して、周囲の理解が得られないときも、とても苦しく悲しい思いをしました。実は、当時私が勤めていた職場にはシングルマザーが一人もいませんでした。それどころか女性スタッフもほとんどおらず、男性たちの配偶者はみんな専業主婦、もしくは実家と同居して子育ては祖父母にお任せ、という恵まれた環境にあることが普通だったため、シングルマザーの私は完全に「問題」でした。
「おまえは自分で選んで悪い男と結婚した。離婚は自業自得だろ。自己責任なんだから、周りに迷惑かけるなよ。」と職場の先輩から叱責され、何も言い返すことができないのが本当に悔しく、辛かったです。職場ではミスは許されない。決して落ち度がないようにしなければならないと、緊張の連続でした。
また、現在の夫と交際するようになったときは、実家の母から「シングルマザーで子供がいるのに、男にうつつを抜かして、子供をほったらかしにしている」と責められ、これも辛い思い出として残っています。シングルマザーの日常はただでさえ困難の連続ですが、周囲の無理解はそれをさらに悪化させるのだと経験しました。
私は離婚直後、子供と共に大きな自然災害に遭遇しました。災害後、生活インフラは完全にダウンし、数日間はろくに食料もありませんでした。地震が続く中、どうやって子供を守って生き延びればいいのかと、生きた心地がしませんでした。
また、私はその後、性犯罪被害を経験しました。子供を人質に取られ、なすすべもない恐怖と絶望…どうすれば子供と二人、生き延びられるんだろうと、地獄のような時間でした。シングルマザーというのは、家に男性がいないということは、こんなに危険で恐ろしいことだったのかと、パニックになりました。そのときの恐怖と記憶は、いまだに私を苦しめ続けています。
離婚直後は、週末に出かけることがとても苦痛でした。街なかや、子供が喜びそうな商業施設は、手をつないだ家族連れであふれています。とくに仲のよさそうな夫婦が、私の子供と同じ年ごろの子を連れてニコニコ歩いているのを見ると、「この子には父親がいない」ということを目の前に突き付けられるようで、とても切なく感じました。
「私の子供は、うちに生まれてこなければ、こんな寂しい思いや苦労をすることはなかったのに…」と、子供に対して本当に罪悪感があり、涙をこらえきれないこともしょっちゅうでした。
経済的にうまくいかないときも、本当にストレスが大きかったです。シングルマザー生活をはじめた私には、借金はあっても、貯金はありませんでした。大学の奨学金の返済、前夫が作った借金の返済に追われていましたが、収入は最低賃金レベル…そんな状況で保育園の選考にも落ち、無認可保育園に多額の保育料を払わなければならなかったときが、最も生活が苦しかったです。
どんなに経済的に大変でも、私には頼る先がありませんでした。何も知らない子供の前で笑顔でいることを、こんなに苦しいと思ったことはありません。「こんな家に産んでごめんね」と、心の中で子供に謝る毎日でした。そして、「こんな状況で、本当に生きていけるのかな…」と不安で仕方ありませんでした。
思い返せば辛いことの多かったシングルマザー生活でしたが、幸いなのは、そんなときに力になってくれた人たちもいたことです。「捨てる神あれば、拾う神あり」とはよく言ったもので、ありがたいなと、今でも深く感謝しています。
私がシングルマザーになり、被災したとき、最初に私たち親子を助けに来てくれたのは、近所に住む友人カップルでした。人々が逃げ惑う中、ふさがった玄関をこじ開け、倒れた家具をどかして、私たちを助け出してくれたことを、私は一生忘れません。
友人たちは、その後私たちの引っ越し先を見つけてくれ、育児の助けが必要なときは交代で駆けつけてくれました。夜間勤務の多い仕事をシングルマザーとして続けられたのは、ひとえに友人たちのおかげです。
また、校区の担当保健師さんも、いつも私たち親子のことを気にかけ、力になってくれました。前夫からの家庭内暴力に悩んだとき、産後うつに苦しんだとき、利用できる相談窓口や支援をたくさん紹介してくれました。入園できそうな認可保育園を探したり、必要な手続きに付き添ってくれたりと、行政の中で一番親身になってサポートしてくれたのが、保健師さんでした。
また、他のシングルマザー経験者、特に年上のシングルマザーの先輩たちが、くじけそうな私を励ましてくれました。経験者ならではの知識や経験、こちらの痛みが分かることは、辛い状況を乗り越える際、非常に強力な支えになります。今は私も、誰かにとってそんな存在になりたいと、強く思っています。
シングルマザーとしてさまざまな困難を経験する中で、まず「子育てのパートナー」を見つけることをみなさんにもおすすめしたいと思います。これは何も、実家の親や新しいパートナーのことだけを指すのではありません。私の場合、近くに住む友人たちが、その役目を担ってくれました。友人たちとグループで子育てをするうち、私は孤独感が癒されるのを強く感じました。私の子供は「夫婦の子供」ではないかもしれないけど、「コミュニティの子供」ではあるのではないか。私は一人じゃない、と感じられたことが、私たち親子を救ったのです。
身近に頼れる人が誰もいない場合は、行政の支援が大きな助けになります。とくに校区の担当保健師さんは親身になって相談にのってくれ、さまざまな支援や制度につないでくれました。保健師さんに限らず、役所の相談窓口など、どこかにSOSを出すことが非常に大切です。地域の子育て支援サービスや、社会福祉協議会などの経済的支援など、利用できるものは出来る限り活用してみましょう。
また、シングルマザー生活のストレスをためないように、日ごろから実践できる、自分へのケアもあります。
シングルマザーの頭の中は、常にいろいろな悩みでいっぱいです。仕事のこと、子供のこと、経済的なこと…一人何役もこなさなければならないので、そのままにしておくとストレスはたまる一方です。
それを防ぐために、ぜひ自分一人で休める時間を意識的に確保するようにしてみてください。散歩や、コーヒー一杯飲む間でも構いません、自分のためだけの時間をとり、頭と心を休めてあげてください。
仕事や家事以外に、何か心癒される趣味を持つこともおすすめです。とくに手を動かすことは、イライラや落ち込み解消にとても効果的だそうです。読書、映画鑑賞、音楽、手芸など、何か出来ることからはじめてみるのはどうでしょうか。朝や寝る前のほんの数分、仕事の休憩時間など、少しでも自分のためだけに何かをすることが、精神的安定につながっていきます。
悲しいことや辛いことがあったら、友だちや家族に電話して、話を聞いてもらいましょう。病院などのカウンセリングサービスを利用することも、自分を客観視し、悩みを解明するのに役立ちます。誰もいないときは、ノートに悩みや気持ちを書き出し、自分で自分と対話してみるのもおすすめです。ネガティブな感情を外に出すことで、苦しみが少し軽くなります。
ここまで辛かった思い出ばかり話してきましたが、もちろんシングルマザーになって幸せだと感じることもたくさんありました。今、シングルマザーになるかどうか悩んでいる人には、恐いことだけではなく、いいこともあるんだよと伝えたいです。
何よりも、家が私と子供にとって、安心してくつろげる場所になりました。私の離婚の最大の原因は、前夫から私たち二人への暴力だったため、家にいる間はいつ前夫が怒り出すかと、恐怖に支配された毎日でした。シングルマザーになったことで、私と子供の心身の安全を守ることができました。だから私は、シングルマザーになったことは、正しい決断だったと思います。
世の中には、カップルの愛が冷めても、生活のために離婚できない人がたくさんいます。私たちシングルマザーの暮らしは確かに大変ですが、でも私は愛と自分の感情に正直に生きられたことに深く感謝しています。
そしてシングルマザーとして新たに恋愛をすることは、困難もつきものでしたが、確かに楽しい経験でした。人に恋するドキドキした気持ちを、また体験することができるとは思いもしなかったからです。自分の気持ちを殺さずに生きることは、私自身のためにも、そして子供への影響を考えても大切なことでした。
そして何より、シングルマザーとして毎日を乗り越えていく自分を、以前より確かに好きになることができました。本当に大変な日々の連続でしたが、それを一日一日どうにかしてきたことで、自信がつき、子供のために強い自分になることができたのです。そして、シングルマザーとしてさまざまな痛みを経験し、自分自身を深く見つめなおしたことで、人の気持ちもより分かってあげられるようになったかなと思います。
シングルマザーの生活には、たくさんの人に言えない悩みや苦労があります。どんなに困ったときにも、子供を守れるのは自分一人しかいないというプレッシャーは、時として苦しくなるほどです。しかしどんな状況にも、一筋の光はあるのです。助けを求めれば、力になってくれる人や、支援の手はきっと見つかります。今悩んでいる人、苦しんでいる人は、あきらめずにSOSを発することからはじめてみてほしいと思います。