子供が1歳のとき離婚し、3歳のとき現在の夫と再婚。アメリカ人の夫とは育児の常識が違うので、カルチャーショックを受けることも多い。現在はカウンセラーとして女性の悩み相談・メンタルケアに対応。URL:https://megumiriyo.themedia.jp/
私は離婚前から、バイリンガルのメンタルケアカウンセラーとして、国内外のさまざまな人々の悩みに関わってきました。特に離婚や産後うつ、育児ノイローゼといった、女性ならではの問題を解決に向けてサポートしてきたのですが、症状の差はあれ、あまりにも多くの女性がうつ状態に苦しんでいることに驚き、胸が痛む日々でした。そんな中、私自身も離婚や被災などを経験し、うつ状態に悩むこととなったのです。
思えば、私のうつは前夫との婚姻中からすでに発症していたのだと思います。前夫との離婚の原因は、前夫の私と子供への家庭内暴力、度重なる浮気、そして金銭問題。しかし前夫が離婚を嫌がったため、離婚成立までは長い時間がかかりました。
前夫が出て行った日のことは、今でもとてもよくおぼえています。「もう子供も私も、家で怖い思いをすることはない」という安心と、「これからきっと幸せになろう!」という希望を胸に別れたはずだったのに…引っ越しが終わり、荷物が減ってガランとした部屋を見て、私は泣いてしまったのです。それはとてもつらく、不思議な感覚でした。離婚は確かに私が望んだことなのに、どうしてこんなに涙が出るんだろう。人が一人いなくなるということは、こんなに理屈抜きの喪失感をもたらすのだろうかと、非常に驚きました。
そして離婚の直後、私の住んでいる街で大規模な災害が起こり、街は崩壊し、たくさんの命が失われました。私は自分も被災者であると同時に、仕事として被災者を支援する日々を送りました。当時、子供はまだ1歳。幸い子供は無傷で、私もケガだけで済みましたが、この子をこの先どうやって守っていけばいいのかと、胸の潰れるような思いでした。
育児や仕事に目の回るような日々を送っていましたが、困難はそれだけではありませんでした。私の職場にはシングルマザーがおらず、そもそも女性スタッフは数名のみ。既婚者は全員配偶者が専業主婦や、実家で親と同居しており、仕事にだけ打ち込める環境が整っていました。そんな中、一番若いスタッフだった私がシングルマザーになったため、先輩たちもストレスだったのでしょう。「自分でひどい男を選んだんだ、自業自得、自己責任」「これから仕事を完璧にできないなら、クビにするぞ」など、職場の先輩たちからひどくバッシングを受けました。
職場では、「実家に帰って親に育児を任せればいい」と言われましたが、私にはそれができない理由がありました。実家の母もシングルマザーとして生きてきたので、母は自分で働いて生きていかなければなりません。体が弱い母には、私のために育児をする時間も体力もありませんでした。それに加えて私は兄弟から「離婚したとはいえ、実家を頼ることは許さない」とも言われていたので、実家に近づくことはできなかったのです。
そんな中、自分がうつ状態におちいっていることに気づいたきっかけは、「料理」でした。当時子供は1歳だったので、子供の離乳食は作り、お弁当として保育園に持たせていたのですが、それ以外の自分のための料理が一切できなくなってしまったのです。離婚前は、毎日毎食料理していたのに、私はキッチンに立つこともできなくなりました。後で思えば、もう料理をしても「自分以外に食べる人がいない」という喪失感、ショックが原因だったのではないかと思います。前夫がいなくなり、心身は安全になったはずなのに、離婚のショックは確実に私の心をむしばんでいました。
そのころ私生活でのトラブルも重なり、私は体重がどんどん落ちていきました。食事は買って済ませていたものの、どれだけ食べても体重が増えないのです。それ以外にも以下のような症状があり、私の体調はどんどん悪くなっていきました。
・眠れない、眠りが浅い
・いつも疲れていて、体がだるい
・体の痛みや頭痛
・のどがつかえたような感触、声が出にくい
・原因不明の発熱が続く
・コレステロールや白血球値の異常
私はついに病院を受診し、極度のうつ状態と診断されました。
私はそれから、通院しながらカウンセリングを受け、服薬治療を行うことになりました。本当は入院をすすめられるほど体調が悪くなっていたのですが、子供のことがあったので、在宅での治療を選びました。何種類もの薬を飲み、やっと日常生活を維持できる状態でした。
うつ病は、病気です。病気は放っておいても治るかもしれませんが、治療しないと長引いてしまうかもしれません。私は今、あの時もっと早くに病院を受診していれば…と、少し後悔しています。シングルマザーであるがゆえに仕事を休むという選択肢がなく、治療どころではないと思ってがむしゃらに頑張っていましたが、それはうつを悪化させるばかりだったからです。今、「もしかしたら私もそうかも…」と思っている人がいれば、ぜひ一刻も早く、まず病院に行ってみてください。
薬に対して抵抗感がある人は、カウンセリングを受けたりするだけでも効果があります。どうして自分がうつ状態におちいってしまったのか、その原因を見つけることが、治療の第一歩になるからです。
うつ状態のときは、その人が今まで普通にできていたことがまったくできなくなることが多々あります。そんな状態を乗り越えるには、周囲のサポートが欠かせません。ここで、私が特に嬉しかった周りからの支援についてお話ししたいと思います。
私の仕事は時間が不規則で、週末勤務や、夜も遅くまで仕事なのは日常茶飯事でした。そんな時、近所に住む私の友人たちや現在の夫が、交代で子供の面倒をみてくれたことに、何よりも助けられました。保育園に迎えに行き、私の仕事が終わるまでベビーシッターしてくれたこと、それがなければ私は仕事を続けることはできなかったでしょう。
家事の中で、料理が一切できなくなってしまったことも悩みの種でした。自分一人の時は何か買って食べればいいや、と適当に済ませていましたが、子供の離乳食も終わり、外食ばかりさせるわけにもいきません。幸い、当時友人だった私の現夫が料理好きで、毎日食事を作ってくれたことに本当に助けられました。
また、シングルマザーを対象としたイベントに参加し、他のシングルマザーたちと交流できたことも、大きな慰めになりました。みんなつらい思いをしてきて、シングルマザーとしての苦労も分かる。ここでは何もいつわらなくていい、何か言われるかもと身構えなくていいんだと、心からほっとしました。そして、幸せに生きているシングルマザーの先輩たちに会い、自分の将来にも希望が持てました。このように、今シングルマザーとして悩んでいる人も、そうでない人も、同じ状況を経験した人と話す機会を持つことはとてもいいことだと思います。
こうして離婚うつを体験し、メンタルケアカウンセラーとしても、うつ状態に悩むたくさんの女性を見てきた上で、離婚うつを乗り越えるにはどうすればいいのか考えてみました。
まず最初にできることは、離婚によるショックやつらい気持ちを押し殺さず、認めてあげることです。離婚は人生の大きな出来事、ショックに感じるのは自然なことなのです。離婚で傷ついた気持ちを否定すると、逆につらさが増してしまいます。自分の中の悲しみを認め、それを癒すためにはどうすればいいのか、考えてあげましょう。
離婚してすぐは、自分の心を癒すために時間をとることをお勧めします。少しの時間でもいいので、育児や仕事から離れて自分だけのために行動しましょう。いつも精いっぱい、緊張状態の心をゆるめてあげましょう。自分と過ごし、対話する時間をもつことで、疲れた心が少しずつ癒えていくのです。
友人、知人、近所の人など、信頼できる人に相談して、少しでも育児をサポートしてくれる人を探しましょう。誰も見つからなかった場合は、自治体の相談窓口を通じて保健師さんを紹介してもらいましょう。子供のことや生活のことなど、親身になって相談にのってくれる保健師さんが多いですし、受けられる支援やサービスなどもたくさん紹介してもらえます。
カウンセリングサービス、病院、友だち、家族などに相談し、つらい気持ちを安心して話せる場所を確保しましょう。悲しいとき、苦しいとき、その感情を自分一人の胸にため込んでいると、余計につらさが増してしまいます。自分を客観的に見つめるためにも、誰かに話を聞いてもらうことは非常に有効です。
そしてどんなにつらくても、どうか生きることをあきらめないでください。シングルマザーの日常はただでさえ困難の連続で、生きることはつらいことに感じる日もあると思います。うつ状態におちいり、いっそ死んでしまいたいと思うこともあるかもしれません。しかし、何があっても、何を失ったとしても、あなたには大切な子供がいます。その幸せを胸に、一瞬、一日を過ごしていってほしいと思うのです。
離婚し、子供を抱えて生きることは簡単なことではなく、うつ病は誰もが患う可能性の高い病です。つらく苦しいのは自然なことであり、そんなシングルマザーの仲間はたくさんいます。今はつらくてしかたないかもしれません。しかしきっといつか、うつを抜けられる日はやってきます。愛する子供のためにも、自分を労わる時間を持ちましょう。お母さんの幸せは、子供の幸せでもあるのですから。