夫婦双方の離婚の意思が固まってきたら、次はより具体的な話を詰めていかなくてはいけません。でも、何を決めなければいけないのか?どうやって決めればいいのか?そんな悩みはなかなか人には相談できないもの。離婚後の母子の生活をより安心しておくるためにも知っておいてほしい、親権、養育費、面会交流についてまとめました。
未成年者の子供がいる場合、夫婦のどちらか一方を親権者と定めなければ離婚届は受理されません。もし妊娠中に離婚した場合は、離婚後に出産した子供の親権は母親になります。
また、親権は、具体的に「身上監護権」と「財産管理権」にわけることができます。身上監護権とは子供の近くにいて、子供の身の回りの世話や教育をする権利で、財産管理権とは子供の財産を管理し、子供の代理人として法律行為をする権利のことです。身上監護権と財産管理権は分離することができるのですが、原則として親権者が両方を行使することになっています。
ちなみに、監護者は、父母以外の第三者でもなることができます。例えば、父母ともに経済力や健康上の理由などで子供の世話ができない場合、家庭裁判所が審判により第三者に監護面を委託できることになっています。この場合の第三者とは、父母の親族や児童福祉施設などがあります。
協議離婚や調停離婚では、夫婦の話し合いで親権者を決めますが、話し合いで解決しない場合は、裁判離婚において裁判所に決定してもらうことになります。裁判所が親権者を決める場合、どのような点を基準にしているのか知っておきましょう。
裁判所による親権者(監護者)の決定基準
子供の利益と福祉を考慮し決定されます。具体的には次のような父母の事情を比較し、決定しています。
・父母の心身状況、健康状況
・父母の監護能力(職業、収入、育児可能な時間、生活態度など)
・祖父母など、監護補助者となり得る親族が身近にいるか
・子供の年齢(乳幼児から10歳くらいまでの子供は、母親とのスキンシップによる養育が自然で幸福だと考えられている。15歳以上になると、子供自身の意思を尊重している。)
・監護への意欲(子供への愛情、面会交流への姿勢など)
なお、経済的な事情は、付随的な事情であり、決定の基準として考慮すべきではないという過去の判例もあります。父母に圧倒的な経済格差があったとしても、子供の監護に必要な収入を確保できていれば、それ以上の収入は求められません。また、養育費の支払いや公的扶助で解決できる問題でもあるため、収入が相手より低いからという理由だけで親権を諦める必要はありません。
そもそも親権というのは、離婚時に父母のさまざまな事情を踏まえ、よく検討したうえで決定されるべき事項です。子供のことを考慮しても、離婚後に親権がころころ変わることは良しとされません。そのため、夫婦の話し合いのみで親権者を変更することはできないようになっています。また、変更が認められる場合も限られています。
親権者変更が認められるケースの一例です。
・親権者がギャンブルに依存し、子供の養育を長期にわたって他人に任せ、放置している場合
・親権者が子供を虐待している場合
・親権者の死亡などにより、親権の変更が子供の成長にとってよいと判断される場合
いずれのケースにおいても、父母両方の事情や子供の年齢、精神的な安定さを考慮し、決定されます。実際に親権者変更を希望する場合は、原則として相手方の住所を管轄する家庭裁判所に親権者変更調停の申し立てをおこないます。流れは調停離婚と大きく変わらず、複数回の調停を経たのち、変更の可否が決まります。
子供を監護・養育していくために必要な費用のことで、一般的には経済的、社会的に自立していない子供が自立するまでに要する費用を意味します(衣食住に必要な経費、教育費、医療費など)。
離婚により親権者でなくなったり、子供と離れて暮らすことになった親でも、子供の親であることに変わりはなく、子供に会うか会わないかに関係なく、父母は親として養育費を分担する義務があります。
そして、失業や債務等で経済的な余裕がないという状況は、養育費を支払えない理由として原則的に認められておらず、養育費支払いを免れるためには、経済的に非常に厳しいことが客観的に認められる窮状である必要があります。
それは、親の子供に対する扶養義務は、自己と同等の生活レベルを子供にも保持させなければならない生活保持義務があるという裁判所の考えからです。つまり、親に負債があったとしても、自らの生活が維持されていて、返済ができているのであれば、子供の扶養も可能ということです。
養育費の取り決めは、取り決めの有無や内容について紛争が生じないよう、口約束ではなく、書面に残しておくようにしましょう。書面に残す場合、可能な限り、執行力を有している公正証書にするのが望ましいですが、難しい場合は、合意書として残し、夫婦双方で1通ずつ保管しましょう(その他、調停調書も公正証書と同じく債務名義となるので、強制執行力があります)。具体的に取り決めるべき主な内容は以下です。
・金額
東京・大阪養育費等研究会が策定した『養育費算定表』が参考になることが多いですが、どのような金額であっても問題ありません。また、『平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告』によると、子供1人の場合の1世帯平均月額は3万8207円、子供2人の場合は平均月額4万8090円、3人の場合は平均月額5万7739円だそうです。
参考:養育費・婚姻費用算定表
http://www.courts.go.jp/tokyo-f/vcms_lf/santeihyo.pdf
・支払い期間
原則として監護すべき子供が成年に達したときまでとされていますが、大学を卒業するまでとするケースも多くあります。
・支払い時期
毎月○日迄など、一定の時期を決めておきましょう。経済状況等により、ある程度の期間分を一括して支払うことも可能です。また、その支払方法は銀行振込などによる送金というのが大半ですが、子供との面会の際に親権者または監護者に対して直接支払うというケースもあります。
・その他
定額の養育費とは別に、入学金や大学の授業料等、特別な出費が生じた際にどのように父母が負担するのか定めておくのもよいでしょう。
養育費には民法第880条により「事情変更の原則」が適用されるため、家庭の経済的な事情により、協議や審判によって取り決めた養育費の額について、家庭裁判所は変更または取り消しすることができます。これは、父母の転職や失業などによる経済的な事情だけでなく、子供の進学や病気などによって発生する必要経費の変動においても有効です。養育費額の変更を希望する場合は、当事者間で話し合いをおこなうか、家庭裁判所に申し立てをおこないましょう。
調停、審判、裁判の判決および和解で養育費の支払いが決まっている場合は、家庭裁判所から相手に約束どおり履行することを勧告してもらうことが可能です。勧告後も成果がみられない場合は、強制執行を申し立てることもできます。
一方で、離婚協議書などの私文書には執行力がありません。そのため、強制執行する場合には裁判を起こす必要があります。こういった点からも、後々のことを考え、公正証書を作成しておくことが望ましいとされています。
子供の成長を支えるうえで、とても大切な養育費ですが、実態は厳しいのが現状です。『平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告』によると、養育費の取り決めをしている世帯は、母子世帯で約43%、父子世帯で約21%だそうです。また、受給率にいたっては、母子世帯で約24%、父子世帯で約3%となっています。
「面会交流をさせてもらえないから養育費を支払わない」といった事態も少なからず発生しているようですが、養育費と面会交流は別の問題です。あくまでも「子供のすこやかな成長」を願って支払われる費用であることを改めて認識し、取り決めをおこなうことが大切です。
夫婦が離婚などにより離れて暮らすことになってからも、一緒に暮らしていないほうの親が子供と会ったり、一緒に遊んで交流することです。子供は大人が思っている以上に周囲の環境変化に敏感で、それらを自分に結びつけて考えてしまうものです。たとえ両親が離婚したとしても、面会交流を実施することで、父母どちらからも愛されていると実感し、安心感と自尊心を育むことができます。
面会交流は子供と一緒に暮らせない親のための権利という側面がある一方で、子供が健全に成長していくために必要な権利という考え方も強いです。そのため、面会交流の取り決めをする際、子供の都合や状況を無視して親の勝手で決めることは認められません。
家庭裁判所における基本的なスタンスは、面会交流を拒否、制限できる具体的な事由がなければ、原則として面会交流を実施させるというものですが、子供の利益と福祉を考慮し、悪影響がある場合には、面会交流が制限されることもあります(親から子供への暴力、連れ去りの可能性など)。
面会交流について話し合う際、設定の有無だけでなく、以下項目についても取り決めをしておくとよいでしょう。内容についても、夫婦間での話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所へ面会交流の調停申し立てをおこなうことができます。
・頻度
一般的には月1回といわれていますが、ケースバイケースで決められます。
・1回あたりの時間
子供が小学校低学年までは2時間程度、それ以降は半日から1日とするケースが多いようです。
・受け渡し方法
「面会中は親権者である親が付きそう(祖父母も同席する)」、「小学校高学年以上になれば子供だけで会わせる」など具体的に決めておくとよいでしょう。また、受け渡し場所はその都度決めてもよいですが、一緒に住んでいない親の住所が遠方の場合、「子供が中学校にあがるまでは、子供が住んでいる場所でおこなう」などと決めておいたほうがトラブルなくスムーズにいきます。
・面会交流を拒否できるケース
「子供が病気のときは面会できない」など、拒否できるケースも決めておくとよいでしょう。
・その他
学校行事への参加の可否、費用の負担、宿泊の可否など。
以上、子持ちで離婚をする際に考えなければいけない、親権、養育費、面会交流についてお話ししました。これらの話し合いがうまくまとまらずに協議や調停が長引くという話はよくあることです。いずれも、これからひとりで子供を育てていく親にとっては重要な内容。そして何よりも子供のための権利であるため、慎重な話し合いが必要です。